2023年10月に始まったインボイス制度(適格請求書等保存方式)は、導入から数年が経過し、いくつかの経過措置が段階的に見直される時期に入ります。特に2026年10月は、免税事業者等からの仕入れに係る控除割合が変わる節目です。また、令和8年度税制改正により、これまで報じられていた内容からスケジュールや特例の内容が変更されています。本記事では、中小企業の経営者・経理担当者向けに、2026年10月以降の変更点と実務上の対応ポイントを整理します。
※はじめに:本記事は2026年6月時点で公表されている情報(令和8年度税制改正の内容を含む)をもとに作成しています。税制は今後の改正で変わる可能性があり、適用の可否は個別の事情によって異なります。具体的な税務判断は、必ず顧問税理士または所轄の税務署にご確認ください。
おさらい──インボイス制度と経過措置の基本
インボイス制度とは、消費税の仕入税額控除を受けるために「適格請求書(インボイス)」の保存が必要となる制度です。仕入税額控除とは、売上にかかる消費税から、仕入れ・経費にかかった消費税を差し引ける仕組みのことです。
インボイスを発行できるのは、税務署に登録した「適格請求書発行事業者」だけです。登録していない免税事業者(年間売上1,000万円以下が目安)からの仕入れは、原則として仕入税額控除の対象外となります。ただし制度開始時の混乱を緩和するため、2割特例や免税事業者等からの仕入れに係る経過措置が設けられました。これらが2026年以降、順次見直されていきます。
インボイス制度で2026年10月以降に変わること
2026年10月前後で、中小企業に関わる主な変化は次の3点です。まず全体像を押さえましょう。
変更点1:2割特例の終了と、個人事業者向け3割特例
インボイス登録を機に課税事業者になった方の負担を抑える「2割特例」は、令和8年(2026年)9月30日を含む課税期間で終了します。一方、令和8年度税制改正で個人事業者向けの「3割特例」が新設され、終了後の負担を緩やかにする措置が用意されました(法人は対象外)。
変更点2:免税事業者等からの仕入れは80%控除から7・5・3割控除へ
免税事業者など、インボイスを発行できない相手からの仕入れについては、現在80%を控除できますが、2026年10月からは70%に見直され、その後も段階的に縮小していきます(従来「2026年10月から50%」と説明されていましたが、改正により延長されました)。
変更点3:簡易課税制度への移行判断が重要になる
2割特例・3割特例の終了後を見据え、簡易課税制度に切り替えるかどうかの判断が重要になります。届出には期限があるため、早めの検討が必要です。
変更点1:2割特例の終了と3割特例のポイント
2割特例は、インボイス登録を機に免税事業者から課税事業者になった方が、納付する消費税を売上にかかる消費税額の2割に抑えられる特例です。適用できるのは「令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日が属する各課税期間」です。
- 個人事業者:課税期間が暦年のため、2026年分(申告は2027年3月)まで2割特例を使えます。
- 法人:令和8年9月30日を含む課税期間まで。決算期によって終了時期がずれます(例:12月決算なら2026年12月期まで)。
そして令和8年度税制改正で新設されたのが「3割特例」です。これは個人事業者のみが対象で、2割特例の終了後、2027年分・2028年分について納付税額を売上消費税額の3割に抑えられます。法人は3割特例の対象外のため、2割特例終了後は本則課税または簡易課税での計算となり、業種・経費構造によっては納税額が増える可能性があります。
個人事業者は「2割特例(〜2026年分)→3割特例(2027・2028年分)」と段階的に移行できますが、法人にはこの3割特例がありません。法人は早めに本則課税・簡易課税のどちらが有利かを試算しておくと安心です。最新の適用要件は国税庁「令和8年度税制改正について」をご確認ください。
変更点2:免税事業者等からの仕入れに係る7・5・3割控除
インボイスを発行できない免税事業者などからの仕入れについては、経過措置として一定割合の仕入税額控除が認められています。この控除割合が、次のように段階的に縮小していきます。
| 期間 | 控除可能割合 |
|---|---|
| 2023年10月1日〜2026年9月30日 | 80% |
| 2026年10月1日〜2028年9月30日 | 70% |
| 2028年10月1日〜2030年9月30日 | 50% |
| 2030年10月1日〜2031年9月30日 | 30% |
| 2031年10月1日以降 | 0%(廃止) |
このように、2026年10月からはまず70%に下がり、いきなり50%になるわけではありません。免税事業者との取引が多い業種(建設業の一人親方との取引、フリーランスへの外注など)では、控除割合の縮小に応じて段階的に負担が増えていくことになります。なお、控除限度額についても見直しがあり、規模の大きな事業者では取扱いが変わる場合があるため、詳細は税理士にご確認ください。
変更点3:簡易課税制度へ移行する場合の注意点
簡易課税制度は、売上5,000万円以下の事業者が選択でき、実際の仕入れにかかわらず、業種ごとに定められた「みなし仕入率」で消費税を計算できる制度です。事業区分(第一種〜第六種)によってみなし仕入率が異なります。
簡易課税を選択するには「消費税簡易課税制度選択届出書」の提出が必要です。原則として、適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに提出します(詳しくは国税庁「簡易課税制度」)。
ただし、2割特例・3割特例を適用していた事業者については、届出期限に特例的な取扱いがあります。特例の適用を受けた課税期間の翌課税期間中に届出をすれば、その翌課税期間から簡易課税を適用できる場合があります。自社がどのタイミングで切り替えるべきかは、本則課税との有利不利の試算とあわせて、税理士に相談しながら決めるのが安全です。
中小企業が今から確認すべき実務対応
取引先マスタ・仕入先の登録状況を確認する
まず、取引している仕入先・外注先のインボイス登録状況を棚卸しします。適格請求書発行事業者公表サイトで、登録番号や事業者名から登録状況を確認できます。確認したい主なポイントは次のとおりです。
- 取引先が適格請求書発行事業者として登録されているか
- 受領している請求書に登録番号が正しく記載されているか
- 登録番号が公表サイトの情報と一致しているか
- 会計ソフトの取引先マスタに、登録の有無を紐付けて管理できているか
免税事業者との取引条件は「話し合い」で見直す
未登録の免税事業者がいる場合、①登録を促す、②取引価格を見直す、③そのまま取引を続けて税負担増を受け入れる、といった選択肢があります。ただし、一方的な値下げの要求や取引停止は避ける必要があります。公正取引委員会は、免税事業者との取引において、一方的に著しく低い価格を設定したり取引を打ち切ったりすることは、独占禁止法上の優越的地位の濫用に該当するおそれがあるとしています(公正取引委員会のQ&A)。必ず取引先と十分に話し合ったうえで対応を決めましょう。
会計ソフト・Excel管理・システム連携を見直す
控除割合が80%→70%→…と変わっていくため、会計・請求ソフトが新しい割合に対応しているかの確認が欠かせません。次の点をチェックしてみてください。
- 請求書テンプレートに登録番号が自動で印字されるか
- 仕入先ごとに登録状況を紐付けて管理できているか
- 経過措置の控除割合(70%など)が自動で反映される設定になっているか
- 電子帳簿保存法の要件(タイムスタンプ・検索機能など)も満たしているか
請求書や経費精算をExcelで手管理している場合、控除割合の変更や取引先ごとの判定が増えるほど、転記ミスや確認漏れが起こりやすくなります。件数が増えてきたら、クラウド会計への移行やシステム連携を検討するタイミングです。判断の目安はExcel管理の限界とシステム化のタイミング、電子保存の基本はペーパーレス化の始め方もあわせてご覧ください。社内にIT担当がいない場合は、外部パートナーの上手な選び方も参考になります。
AI・OCRで確認作業を効率化する
仕入先の登録状況確認や請求書のチェックは手間のかかる作業です。AI-OCRによる請求書の自動読み取り(登録番号・税率・税額の抽出)、クラウド会計のAI仕訳支援、登録番号の有効性や記載要件の自動チェックなどを組み合わせると、経理担当者の確認作業を減らせます。ただし、AIの判定はあくまで補助であり、最終確認は人が行うことが前提です。導入の進め方はAI業務活用コンサルティングでもご相談いただけます。
2026年10月までの対応ロードマップ
2026年10月の控除割合変更(80%→70%)と、2割特例の課税期間終了に向けて、今から進めておきたい対応の流れです(課税期間は事業者ごとに異なるため、時期は目安です)。
- まず着手:仕入先・外注先のインボイス登録状況を全件確認し、取引先マスタを整理する
- 夏頃まで:会計・請求ソフトが新しい控除割合に対応しているか確認・設定する
- 2026年9月末まで:免税事業者の取引先と方針を話し合い、簡易課税の届出要否を税理士と検討する
- 2026年10月以降:70%控除での運用に切り替え、処理が正しく反映されているか確認する
- その後:個人事業者は3割特例(2027・2028年分)、以降の控除割合縮小(2028年10月〜50%等)に備える
仕入先・外注先の
インボイス登録状況を全件確認
会計・請求ソフトの
新割合対応を確認・設定
免税事業者との方針を協議
簡易課税の届出要否を検討
70%控除での運用に切替
反映状況を確認
個人は3割特例(27・28年分)
2028年10月〜50%等に備える
出典:本文記載の対応ロードマップ
よくある質問
- 2026年10月から控除割合は50%になるのですか?
いいえ。令和8年度税制改正により、免税事業者等からの仕入れに係る控除割合は、2026年10月からは80%から70%に見直されます。50%になるのは2028年10月以降で、その後30%(2030年10月〜)、0%(2031年10月〜)と段階的に縮小していきます。
- 2割特例はいつ終わりますか?3割特例とは何ですか?
2割特例は、令和8年(2026年)9月30日を含む課税期間で終了します。個人事業者は2026年分(申告は2027年)まで使えます。終了後、個人事業者には新設の「3割特例」があり、2027年分・2028年分は納付税額を売上消費税額の3割に抑えられます。法人は3割特例の対象外です。
- 簡易課税制度に切り替えるには何が必要ですか?
原則として、適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出します。ただし2割特例・3割特例を適用していた事業者には届出期限の特例的な取扱いがあるため、切り替えのタイミングは税理士に相談しながら決めるのが安全です。
- 免税事業者の取引先に登録や値下げを求めてもよいですか?
登録の意向を確認すること自体は問題ありませんが、一方的に著しく低い価格を求めたり、取引を打ち切ったりすることは、独占禁止法上の優越的地位の濫用に該当するおそれがあります。必ず取引先と十分に話し合い、双方が納得できる形で対応を決めてください。
- 登録番号の確認は毎回必要ですか?
取引の都度確認する義務はありませんが、登録の取り消しや失効が起こる場合もあります。半年に1度程度、適格請求書発行事業者公表サイトで確認する運用がおすすめです。クラウド会計ソフトの自動連携機能を使うと負担を減らせます。
- 会計ソフトを変えなくても対応できますか?
既存のソフトでも、設定変更やアップデートで控除割合の変更に対応できる場合があります。ただし、古いソフトや対応が限定的なシステムでは手動対応が増え、コストやミスのリスクが高まります。費用対効果を比較して検討することをおすすめします。
アイ・エス・プライムが支援できること
インボイス制度の2026年10月変更は、「制度の理解」と「日々の経理実務」の両方に影響します。「どこから手をつければよいかわからない」「取引先ごとの判定や控除割合の管理が煩雑」「Excel管理が限界」といった課題はよくあります。株式会社アイ・エス・プライムでは、クラウド会計・請求ツールの導入支援、取引先マスタの整備、Excel業務のシステム化、AI-OCRによる請求書処理の効率化まで、中小企業の業務改善をご支援しています。
※税務に関する注意:本記事は制度の概要を分かりやすく整理したものです。税額の計算方法の選択(本則・簡易・特例)や届出の要否など、具体的な税務判断は事業者ごとに異なります。必ず顧問税理士または所轄の税務署にご確認ください。当社は税務代理・税務相談を行うものではなく、業務システム・IT面からの効率化を支援します。
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