群馬県には、自動車関連をはじめ金属加工・繊維・木工など多様な中小製造業が立地しており、人手不足や技術継承への対応としてIoTや生産管理のデジタル化に取り組む企業が増えています。本記事では、群馬県内の製造業DXの取り組みを、公的機関が公開している事例、当社(株式会社アイ・エス・プライム)の導入実績、県の補助金に採択された開発テーマの3つに分けて紹介します。
掲載する企業の所在地・取り組み・成果は、各出典に書かれている範囲に限っています。出典に数値の記載がない成果は、本記事でも数値を補っていません。
この記事で紹介する事例の一覧
| 企業(所在地) | 区分 | 取り組み | 出典 |
|---|---|---|---|
| 有限会社永井製作所(邑楽町) | 公的機関の公開事例 | プレス金型の設計の3D化、解析ソフトの導入、補助金を活用した設備導入 | 中小機構「補助金活用ナビ」 |
| 株式会社エルグ(富岡市) | 公的機関の公開事例 | 無料のクラウドツールを使ったDXの内製化とペーパーレス化 | 群馬県産業支援機構 |
| 株式会社千吉良様 | 当社の導入実績 | クリンプ編み機の稼働監視、Slack通知、リモートでの起動・停止 | 当社の導入事例 |
| 株式会社古川製作所(太田市) | 補助金の採択テーマ | Excel UI型の生産管理基盤の開発(令和8年度採択) | 群馬県 |
| 有限会社荒井家具製作所(桐生市) | 補助金の採択テーマ | ゼロエネ乾燥機の自動管理システムの開発(令和6年度採択) | 群馬県 |
補助金の採択テーマは、開発計画が採択されたことを示すもので、導入が完了したことや成果が出たことを示すものではありません。導入事例とは分けて紹介します。
公的機関が紹介している群馬県の製造業DX事例
有限会社永井製作所(邑楽町)|プレス金型の設計3D化とシミュレーション導入
永井製作所は、1961年創業のプレス金型の設計・製作会社です。中小企業基盤整備機構(中小機構)の「補助金活用ナビ」で、ものづくり補助金と支援機関の伴走支援を活用した事例として紹介されています。
- 課題:設計が2次元図面中心で、複雑な形状の修正に時間がかかっていた。金型を仕上げる工程は熟練者の調整に頼っており、試作段階で5回から10回の再調整が必要になる場合もあった
- 支援機関への相談:2019年に群馬県立群馬産業技術センターに相談。ワイヤーカット、マシニング加工、CAD/CAMの活用という段階的な改善案と、ものづくり補助金の活用について助言を受けた
- 設備の導入:ものづくり補助金に2回採択され(出典に記載の活用補助金は2020年度第1次・一般型)、ワイヤーカット放電加工機やマシニングセンターを導入した
- 設計の3D化:3D CAD/CAMを追加で導入し、現在は設計の8〜9割を3Dで行っている
- シミュレーションなど:2023年に、組立工程の省力化を目的としたMR(複合現実)ゴーグルの活用を試み、プレス成形で起こりやすい割れや反りを予測する解析ソフトを導入した。出典では、加工精度が向上し、工数削減や納期短縮にもつながっていると紹介されている
同社は2022年に経済産業省の「地域未来牽引企業」に、2024年に「DXセレクション」に選定されています。今後は、従来10年かかっていた技術の習得を1年程度に短縮できる体制づくりを目標としています(達成済みの成果ではありません)。
出典:中小機構 補助金活用ナビ「補助金で現場改革、その先のDXに挑んだ永井製作所の成長の軌跡」(2025年11月25日公開)
株式会社エルグ(富岡市)|無料クラウドツールによるDXの内製化とペーパーレス化
エルグは、微細部品などへの精密めっき加工を手がける企業です。公益財団法人群馬県産業支援機構のWebサイトで、「ペーパーレス化」と「見える化」を目的にした取り組みが紹介されています。
- きっかけ:DXを進める企業を視察した際、簡単なシステムは無料のクラウドツールで内製していると聞いた。ただ社内にITスキルがなく、進め方が分からなかったため、産業支援機構に相談した
- 進め方:各部署からメンバーを集めてプロジェクトを立ち上げた。月1回のプロジェクト会議に機構のコーディネータが参加し、基礎的なITリテラシーの向上や、Googleスプレッドシート・Looker Studioなどの使い方を指導した。メンバーは生成AIも活用しながら、自分たちでシステムを作った
- ペーパーレス化:有給休暇などの申請に使う「総合届」、間接資材の購入に使う「購入依頼届」をシステム化し、LINE WORKSを使って「出庫伝票」もペーパーレス化した
- 展開:各部署で小さく始め、現在は全社での運用に広がっている
同社は「作成したシステムは問題なく運用でき作業の効率化が図れています」とコメントしており、今後は生産進捗や受注状況など既存データの「見える化」に取り組むとしています。出典には効果の数値は示されていません。
出典:公益財団法人群馬県産業支援機構「デジタル化を検討したい」事例紹介(株式会社エルグ)
当社の導入実績:株式会社千吉良様のクリンプ編み機の稼働監視
株式会社千吉良様では、クリンプ編み機でナイロン糸を加工しています。編み機は糸の供給状態などによって停止することがあり、停止ランプは点灯するものの、現場で目視しないと停止に気づけない状態でした。また、編み機の電源を入れるためだけに早く出社することもありました。
当社(株式会社アイ・エス・プライム)は、次のような仕組みを開発しました。
- 稼働状態の検知:編み機メーカーに制御盤の信号仕様を確認したうえで、フォトカプラを使った回路とESP32モジュールで稼働・停止を判定し、工場内のWi-Fiでクラウドに送信
- 停止の通知:停止時・起動時にSlackの所定のチャンネルへ通知し、スマートフォンで状況を確認できるようにした
- 見える化:12台の編み機の稼働状態を一覧できるダッシュボードと、稼働時間・CO2排出量のグラフをWebシステム(Laravel)で構築
- リモートでの起動・停止:リレーモジュールを使い、Webからの指示で編み機を起動・停止できるようにした
まず1台分のハードウェアを社内で動作確認したあと、工場の編み機に設置して2週間ほど稼働させ、データの取得、Webからの起動・停止、Slack通知に問題がないことを確かめてから、ほかの編み機に展開しました。その結果、現場にいなくても編み機の停止を把握でき、稼働時間とCO2排出量を確認でき、リモートで起動・停止できるようになりました。
なお、製造設備の遠隔起動・停止は、安全対策や設備メーカーの仕様確認が前提となります。ほかの設備へ同様の仕組みを導入する際には、既存の安全機能を損なわない設計とリスク評価が必要です。
開発の詳細は「【株式会社千吉良様】クリンプ編み機の監視と停止状態の把握・リモート起動」で紹介しています。設備の稼働監視や機器制御の仕組みは、当社のIoTソリューションでご相談いただけます。
補助金の採択テーマ(導入済みの成果ではありません)
群馬県は「ぐんまDX技術革新補助金」の採択企業と研究開発テーマを公表しています。その中から、生産管理と設備の自動管理に関わる2件を紹介します。いずれも採択された開発テーマであり、開発の完了や効果を示すものではありません。
| 企業(所在地) | 採択年度・枠 | 採択された研究開発テーマ |
|---|---|---|
| 株式会社古川製作所(太田市) | 令和8年度 ぐんまDX技術革新補助金(デジタル実装枠) | 個別受注生産における日程調整の暗黙知を形式知化する、Excel UI型生産管理基盤の開発 |
| 有限会社荒井家具製作所(桐生市) | 令和6年度 ぐんまDX技術革新補助金(デジタル実装枠) | ゼロエネ乾燥機の自動管理システムと拡張機能の開発 |
出典:群馬県「ぐんまDX技術革新補助金・ぐんま技術革新チャレンジ補助金 実施状況」
事例に共通する進め方
上の事例は業種も規模も異なりますが、出典に書かれている進め方には次の共通点があります。
- 支援機関に相談して課題を整理している:永井製作所は群馬産業技術センター、エルグは群馬県産業支援機構に相談し、何から取り組むかを明確にしてから着手しています
- 小さく試してから広げている:エルグは部署ごとに運用を始めてから全社に広げ、千吉良様の稼働監視は1台で2週間検証してからほかの編み機に展開しました
- 現場の困りごとから始めている:千吉良様の仕組みは「停止に気づけない」「起動のためだけに早く出社する」という具体的な課題から要件を決めています
製造業DXの導入前に確認すべきことと測るKPI
DXの効果は、導入前の状態を測っておかないと評価できません。取り組み別に、導入前に確認したいことと、効果を測る指標の例をまとめます。指標は自社の課題に合わせて選んでください。
| 取り組み | 導入前に確認すること | KPIの例 | 測り方の例 |
|---|---|---|---|
| 設備の稼働監視(IoT) | 設備から取り出せる信号(稼働・停止・異常)、設備メーカーへの確認、工場内の通信環境 | 設備稼働率、停止時間・停止回数 | 導入前の数週間、停止時刻と再開時刻を記録して比較する |
| 生産管理・工程管理 | 受注から出荷までの流れ、Excelや紙で管理している範囲、入力する人と頻度 | 納期遵守率、工程ごとのリードタイム | 受注台帳と出荷実績から月ごとに算出する |
| AI外観検査 | 検出したい不良の種類と見本、撮影条件(照明・位置・搬送速度)、合否の判定基準 | 見逃し率、過検出率、1個あたりの処理時間 | 良品・不良品のサンプルを使って実機で検証し、人の検査結果と比べる |
| 予知保全 | 故障履歴や保全記録の有無、センサーデータを蓄積できる期間 | 計画外停止の回数・時間、予兆検知の的中件数と誤報件数 | 一定期間運用し、検知結果と実際の故障・点検結果を照合する |
| 作業記録のデジタル化 | 紙の帳票の種類と記録の目的、保存期間、転記している作業 | 作業記録にかかる工数、転記ミスの件数 | 導入前後で、1件あたりの記入・集計時間を計測する |
| 技術継承 | 対象の作業と、熟練者が判断しているポイント | 新人が独り立ちするまでの教育期間、手直しの回数 | 教育記録から期間と回数を集計する |
部材や製品の在庫管理を見直す場合は、Excel管理の限界やロット管理の考え方をまとめた「在庫管理システム導入ガイド」も参考になります(食品卸向けの記事ですが、考え方は製造業の部材管理にも共通します)。
技術を導入するときの注意点
- AI外観検査:検査の精度や速度は、対象の不良の種類、照明やカメラの位置などの撮影条件、学習に使う画像によって大きく変わります。見逃し率・過検出率・処理時間を自社の製品と実機で検証してから導入を判断し、見逃しが許されない工程では人の確認をどう残すかも決めておきます
- 予知保全:故障の予兆を検知するには、センサーデータの蓄積、故障履歴や保全記録、予測モデルの評価が必要です。故障がまれな設備では学習に使えるデータが足りないこともあり、故障の予測や保全費用の削減が保証されるわけではありません。まずは稼働状態の監視や状態の記録から始め、データがたまってから予兆検知を検討するのが現実的です
- 技術継承:作業動画やセンサーデータは、熟練者の判断を記録して教育に役立てるための材料です。熟練者の判断を完全に置き換えるものではないため、熟練者による確認やOJTと組み合わせて使います
- 食品工場の衛生管理(HACCP):IoTで温度などの記録を自動化しても、それだけでHACCPに沿った衛生管理が完了するわけではありません。衛生管理計画の作成と従業員への周知、実施状況の記録と保存、計画の定期的な検証と見直しが必要です。センサーの校正やデータが欠けた場合の対応も決めておきます(厚生労働省「HACCP」)
予知保全やエッジAIなど、製造業でのIoT活用の動向は「製造業IoTの2026年トレンド」で解説しています。
群馬県の支援機関と補助金の活用
事例の企業も活用している、県内の支援機関と主な補助金を紹介します。制度の詳細や相談窓口の一覧は「群馬の製造業向けIoT・DX支援制度まとめ」で整理しています。
- 公益財団法人群馬県産業支援機構:「スマートファクトリー創出支援事業」として、ハンズオン支援などで製造業のデジタル技術による生産性向上を支援しています。エルグの事例では、同機構のコーディネータが伴走支援を行いました
- 群馬県立群馬産業技術センター:永井製作所の事例では、技術面の課題整理と補助金の申請書づくりを支援しました
- ぐんまDX技術革新補助金(群馬県):県の補助金で、これまでの採択企業と研究開発テーマが県のページで公表されています。対象や募集時期は県の募集案内で確認してください
国の補助金は、2026年10月22日時点で次のとおりです。公募回や要件は変わるため、申請前に必ず公式サイトの公募要領を確認してください。
- デジタル化・AI導入補助金2026(旧:IT導入補助金):中小企業・小規模事業者のITツールの導入を支援する制度です。対象となるツールや申請枠は事務局サイトで確認できます
- 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金(中小機構):革新的新製品・サービス枠、新事業進出枠、グローバル枠があります。第1回公募の締切は2026年10月30日18時です(以降の公募回の日程は公式サイトで確認してください)。枠ごとに対象となる事業が異なり、単なる設備更新や通常のシステム導入だけでは対象外になる場合があるため、公募要領で事業目的と要件を確認してください。補助事業の終了後に付加価値額や賃金の伸びなどの目標を満たす必要があり、未達の場合は補助金の返還を求められることがあります
- 事業再構築補助金:新規の応募受付は第13回公募(2025年3月締切)で終了しています
複数の補助金を使う場合の注意:国が目的を指定して支出する他の補助金と同一の補助対象経費を含む事業は、補助の対象外です(ものづくり補助金 第23次公募要領)。別の経費に別の補助金を使う場合も、それぞれの公募要領で併用の可否を確認してください。また、補助金は原則として事業の実施後に支払われるため、いったん費用を全額立て替える資金計画が必要です。補助金を使えば必ず負担が減るとは限らず、申請や報告の手間、要件未達時の返還リスクも含めて判断します。
まとめ
群馬県の製造業DXの取り組みとして、中小機構と群馬県産業支援機構が公開している永井製作所・エルグの事例、当社が開発した千吉良様の稼働監視の仕組み、ぐんまDX技術革新補助金に採択された開発テーマを紹介しました。永井製作所とエルグの事例では、支援機関の助言を受けながら課題を整理し、デジタル化を進めています。また、当社が開発した千吉良様の設備監視システムでは、1台で検証してからほかの設備へ展開しました。これらの事例は、現場の課題を明確にし、段階的にDXを進める際の参考になります。
自社で取り組む際は、導入前に稼働率や納期遵守率などの現状を測り、AI検査や予知保全は実機やデータで検証してから判断することをお勧めします。補助金は公募要領を確認したうえで、資金計画の一部として検討してください。
株式会社アイ・エス・プライムでは、設備の稼働監視・機器制御などのIoTソリューション、生産管理などの業務システム開発、DX推進のご相談を承っています。「どこから始めればよいか分からない」という段階からご相談ください。





